AI・IoTサービス開発部 開発マネージャーの高村です。
前回「1on1でコーチングをする」という記事を執筆しましたが、その続編として「1on1やコーチングで使える傾聴」について書こうと思います。
傾聴とは
相手の話を聞くだけではなく「声の大きさ」「トーン」「身体で表現されるしぐさ」に注意を払い、相手が話していることを体の中で感じ、伝えたいことを理解し、その理解が相手の体の中の感覚と一致するかどうかを確かめることで、まるで相手の内面に一緒に留まる伴走者になるような聴く技法と理解しています。
傾聴をすることで、相手は「この人は自分のことを理解してくれる」と感じてくれるようになります。自分のことを理解してもらえることを感じた後、次第に自分の内面に意識を向けるようになり、深い話ができるようになっていきます。
話せる雰囲気をつくる
まずは関係づくりを大切にし、安心して相手が自分のことを話せるように配慮します。
その際に意識しておきたいのが、座る位置やお互いの距離感、相槌と頷きになります。人によって安心できる距離感に違いがありますので、好きな位置に座ってもらうことも一つの方法です。相槌と頷きを意識して大きくすることで、この人は話を聞いてくれていると感じてもらえます。
特に「オンライン」でやる場合は、大げさなぐらいの「相槌・頷き」を心がけています。「声のトーン」「相槌・頷き」「笑顔」が大切で、それだけでも、相手が話しやすい雰囲気を作れます。また、勇気づけも必要で、相手の良いところを話すとポジティブな話になり雰囲気がよくなります。
このように、関係構築初期の段階は、相手を「おもてなし」するかの感覚で接することで、リレーション(心や気持ちの繋がり)を作っていくことができます。
聴き方で意識をすること
ビジネスシーンでは、アドバイスをしたり結論を言ってしまいがちですが、傾聴では、相手の話を聴くことを優先にします。相手の話を評価せずに聴き、否定をすることはしません。相手の立場に立って、相手の気持ちに共感しながら理解していきます。
なぜそのように考えるのか、その背景を肯定的な関心を持って聴きます。そうすることで相手は安心して話すことができるからです。また、話がわかりずらいことがあっても、わからないことをそのままにせず、真意を確認します。
これはアメリカの心理学者「カール・ロジャース」の3原則の中で言われている、「共感的理解」「無条件の肯定的関心」「自己一致」に基づくものです。
繰り返しで受容と共感と安心感を与える
相手が「最近イライラするんです」と言った場合、「最近イライラしているんですね?」
相手が「残業続きで疲れが溜まっている」と言った場合、「疲れが溜まっているんですね?」
と相手の言葉や語尾をそのまま繰り返します。そうすることで、相手は、自分の話を聞いてもらっていると感じてくれます。また、繰り返しを行うことで細かい部分に自然に入っていけると思います。
相手が「最近、自分に自信がなくって」と言った場合、「最近、自信がないんですね。どういうところに自信がないのですか」というように、自然に踏み込むことができると感じています。
悩みや相談との向き合いかた
いつも楽しい話ばかりではありません。人は悩むときもありますし、相談することもあります。
相手が悩みや相談を言ってきた時に「君なら大丈夫だよ!」というように返答すると、その場は、それで収まりますが、相手は、心のどこかにモヤモヤを持っている状態になります。
そのような時は、相手の気持ちの内面に一緒に留まる向き合い方をします。
まずは、話すペースと声のトーンを落とします。そして、繰り返しを行いながら、相手が言っていることを身体の内面で感じます。相手が言っていることを身体の内面で受け取り、「あ〜、え〜、○○という理解であってますか?」と問いかけることを繰り返します。そうすると、自分が鏡になっているかのように、相手も内面に意識を向けるようになり、話し方は「ゆっくり」となり、例えば「あ〜、え〜」というような、いつもとは違った話し方に変化してきます。
そのような状態になると、相手は心の中にある「あいまいな感じ」や「漠然とした違和感」を感じ始め、自分のこころのメッセージを聴き始め、次第に整理が始まり、気付きが生まれます。
これはフォーカシングというもので、「あいまいな感じ」や「漠然とした違和感」は「フェルトセンス」と呼ばれています。
相手が悩んでいる時は、心のメッセージを受け取る伴走者となります。
モチベーションを高める
マクレランドの欲求理論では「達成動機(欲求)」「権力動機(欲求)」「親和動機(欲求)」「回避動機(欲求)」の4つの主要な動機ないし欲求が存在するとしています。
傾聴を行いどの動機によって作業をしているかを見極めます。そうすることで適切な形でタスクを配分できるようになると思います。
(1) 達成動機(欲求)
- 自分が設定した目標を達成し成功しようと努力する欲求
(2) 権力動機(欲求)
- 自分以外の人々に働きがけを行い、影響力を行使しようとする欲求
(3) 親和動機(欲求)
- 他社との友好関係を築き、維持したい、よく見てもらいたい欲求
(4) 回避動機(欲求)
- 失敗や批判を避けたい欲求
自己実現欲求に向けて
マズローの欲求5段階説によると「生理的欲求」「安全の欲求」「社会的欲求」「承認欲求」「自己実現の欲求」の5つの欲求があり、1段ずつ登っていくとされています。
この段階は下がることもあり、日々の中で変動する為、1on1の中で傾聴をしながらメンバーが「自己実現の欲求」の段階にいくことをサポートし続けることで自分の才能を存分に発揮してもらいながら成長を続けると思います。
(1) 生理的欲求
- 生活する為にお金を稼ぎたい欲求
(2) 安全の欲求
- 安定した給料を得たい、過重労働にならない職場で働きたい欲求
(3) 社会的欲求
- 上司やチームメンバーと良好な関係を築きたい欲求
(4) 承認欲求
- 仕事で認められたい、成果を上げたい欲求
(5) 自己実現の欲求
- 自分の才能を仕事で発揮したい、会社に貢献したい、もっと成長したい欲求
さいごに
いかがでしたでしょうか。1on1を行う際、傾聴に注意を向けることで、これまでと違った1on1になると思います。
私の発見としては、傾聴を学んでいくと次第にカウンセリングに近づいていったことです。そして深く学んでいくと「フォーカシング」「プロセスワーク」など、カウンセリングの技法を知る必要がでてきました。
今後も様々な方法を取り入れながら、エンジニアの成長の支援ができればと思っています。
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参考文献
- プロカウンセラーが教える 1on1コミュニケーション入門
- はじめてのカウンセリング入門(上)―カウンセリングとは何か
- はじめてのカウンセリング入門(下)―ほんものの傾聴を学ぶ
- 新しいカウンセリングの技法 :カウンセリングのプロセスと具体的な進め方
- カウンセラー、コーチ、キャリアコンサルタントのための自己探究カウンセリング入門
- やさしいフォーカシング―自分でできるこころの処方
- プロセスワーク入門―歩くことで創られる道