
はじめに
こんにちは!プロモーション・デザイン・ユニットのプロモーションチームです。 普段はオプティムのWebサイト全体の管理・運用を担当しており、コンテンツの企画からページ制作まで幅広く手がけています。
さて、突然ですが「屏風の虎」という一休さんの説話をご存知でしょうか。 お殿様が「屏風の虎が夜な夜な抜け出して悪さをするので退治せよ」と命じたところ、一休さんが「ではまず屏風から虎を出してください」と切り返した、という有名な話です。
これは「実現不可能な前提に基づく要求は解決できない」という教えで、システム開発やデザイン制作の現場でもよく例えに使われています。

実現不可能な前提に基づく要求は愚かなことであると戒めている説話ですが、ここ最近AIが発展したことで、AIに対して同様のことをやってしまってはいないでしょうか。
AIは実現不可能な前提であっても回答を提示してくるため、その的外れな回答を見てつい「AIは役に立たない」と結論づけたくなることがあります。しかし、そう言った場合本当の問題は「屏風から虎を出せ」という無茶振りをしている人間の方にあるかもしれません。
実は今回、まさにこの「屏風の虎」のようなことをやってしまったので、お恥ずかしながら、どのような失敗をしたのかと、どのように解決したのかをご紹介したいと思います。
AI活用がうまくいかないと言う方の、何かの参考になれば幸いです。
私たちが抱えていた課題と、AIへの無茶振り
まずは私たちが抱えていた課題について説明します。
オプティムのWebサイトはこれまで20年近く、担当者や担当部署が変遷しながらコンテンツが拡充されてきました。 現在の運用担当者である私たちは、オプティムの情報を正しく伝えられるように、Webサイトを巡回して課題を抽出し、定期的にメンテナンスをするということを行なっています。
そんな中、Webサイト全体の課題として「語句の不統一」が持ち上がってきました。 例えば、「顧客」を表す表現について見ていくと、Webサイトの中に、以下のようにさまざまな言葉が混在していました。
- 「顧客」
- 「お客様」
- 「利用者」
- 「利用者様」
- 「ご利用者様」
- 「ご利用の方」
- 「担当者」
- 「担当者様」
- 「担当者の方」
- 「ご担当者様」 など…
意味の違いはわずかですが、表現によって受ける印象は異なってきます。 Webサイトは「企業の顔」のため一貫性のあるブランドを発信し、企業としてのイメージを正しく伝えていく必要があります。
そこで、語句の統一をプロジェクト化し、対応を進めていこうと考えました。
語句の統一プロジェクトの進め方
- サイト内で使われている箇所の洗い出し
- 語句の利用が適切かどうかの精査
- 修正案の作成
- 広報チームへの確認
- 実装(修正作業)
- 実装後の確認
とはいえ……表記揺れの抽出と検討を、1つずつ人力で行うのはなかなか厳しいものがあります。 オプティムのWebサイト全体は数百ページあり、表記揺れについてはどのページにどれくらい含まれているかわかっていないからです。
そこで、AIを利用してできるだけ効率的に、抜け漏れなく対応をすることができないかを考えることにしました。
まずはとりあえずAIへ丸投げ
最初は、とりあえず全部AIにやってもらうというイメージでこんなプロンプトを入れてみました。 冒頭の「一休さん」の例で言えば「これ一休や、屏風の虎を退治してみよ」と言ってみたイメージです。
プロンプト:
以下のURLのWebページを読み込み、リンクを全て辿って 文脈上「お客様」「顧客」「利用者」「担当者」などの顧客を表す単語が 使われている箇所をリストアップしてください。 URL: www.optim.co.jp
出力結果:
以下、私が確認できた範囲で、www.optim.co.jpドメイン内で顧客を表す単語が使われているページの URL をリストアップします:
https://www.optim.co.jp/optim-contract/contact/
— 「すでにOPTiM Contractをご利用のお客様へ」
https://www.optim.co.jp/eula/optim-aires/freeplan.html
— 「お客様からのお申込み…」
https://www.optim.co.jp/cios-eula
— 「お客様は、本利用規約…」
https://www.optim.co.jp/eula/unlimited-pc/
— 「お客様は、本サービスに会員登録することにより…」
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一見、うまく調べられたように見えました。 しかし、本物っぽい結果を出すのはAIの得意とするところで、出力結果を精査すると、そもそもこの課題を認識する原因となったページすら含まれておらず、全ページを網羅して調べたとは言えないものでした。
「対象ページの範囲ってどこまで?対象語句も曖昧だし…ハァ…とりあえず”お客様”って単語だけそれっぽく抽出しておくか…」
そんなAIのため息が聞こえる気がしました。
一休さんはお殿様に対して「屏風から虎を出してください」と言うことで「実現不可能な前提ですよ」という気づきを与えていましたが、AIは雑な返答を送ってくることで、同じように気づきを与えてくれました。
AIのために屏風から虎を出す方法を考える
AIからやりこめられてしまったので、屏風から虎を出すことにしました。 まずは元々6段階に分けていた進め方をもとに、それぞれの工程でどのようにAIを使うと効率化できるかを考えることにしました。
1. サイト内で使われている箇所の洗い出し 〜初心者がAIと一緒にPythonにチャレンジ〜
チーム内で相談してみると、「Optimal BizからOPTiM BIzへの名称変更をした際にPythonでWebサイトの全ページを網羅的に確認した。」という意見が出てきました。 そのメンバーはノンプログラマーだったのですが、「Python初心者だったけどAIに依頼したら環境構築がすぐにできた」とのことだったので、私にもできそうだと感じました。 以前使ったというプロンプトを参考に「Pythonで対象語句を抽出するスクリプト」をAIと一緒に作ることにしました。
こちらのブログを見ている方にとってPythonの環境構築は朝飯前だと思いますので詳細は割愛しますが、Pythonを全く触ったことのない私でも環境構築からスクリプトの完成までを1時間かからずに終わらせることができました。
以下のように会話形式でAIに話しかけていきました。
私:「WebサイトをPythonでスクレイピングしたいのですが、初心者なので環境構築から教えてください。」 AI:「もちろんです!まずは必要なライブラリをインストールしましょう…」
すると、AIはターミナルに入力するコマンドの1つ1つまで丁寧に教えてくれて、途中でエラーが出た時にもエラー文言を入力すれだけで解消方法を提案してくれました。
このようにAIをアシスタントとして活用したところ、AIに丸投げした時の4倍以上の量の対象語句を抽出することができました。抽出文言を何件かピックアップして確認したのですが、精度も問題ありませんでした。
AIに丸投げするのではなく、AIにサポートさせることで最初のステップ「サイト内の対象語句抽出」を成功させることができました。
2. 語句の利用が適切かどうかの精査 /3. 修正案の作成 〜AIにあたりをつけさせる〜
工程1で、抽出した該当URLと該当箇所の文章を、Excel上で扱えるように表として出力しなおし、次は語句の利用が適切かどうかの精査をしていきます。
それにあたって、まずは人間がライティングルールを明確に決めることにしました。
サービスや製品を購入・契約する主体 → OK:「顧客」NG:「お客様」「お客さま」 実際に使用する個人や組織 → OK:「利用者」NG:「ご利用者様」「利用者様」「利用の方」 より丁寧な呼びかけが必要な場合 → OK:「お客様」NG:「顧客」
AIにはライティングルールに基づいて適切に語句が使用されているかどうかの精査と修正が必要な箇所の修正案の提案を任せました。
【プロンプトイメージ】
あなたはB2B Webコンテンツ編集の専門家です。 以下のライティングルールに従い、 与えられたテキスト片に含まれる該当語句の「使用が適切か」を判定してください。 不適切な場合は、最適な置換語と理由を簡潔に出力してください。 - サービスや製品を購入・契約する主体 → 「顧客」 - 実際に使用する個人や組織 → 「利用者」 - より丁寧な呼びかけが必要な場合 → 「お客様」
結果として約80%、妥当な修正案が生成されました。 ただし、20%は適切かどうかの判定が不十分であったり、日本語として不自然な修正案が生成されていました。 最後には人間によるチェックが重要であることを改めて実感しました。
4. 広報確認 / 5. 実装(修正作業)/ 6. 実装後の確認 〜最後は人間ががんばる〜
修正案は一度チーム内でチェックした上で、最終的に社として展開して良いかどうか広報部門にも確認いただきます。
こうして固まった原稿を元にして、HTMLコーディングを行い、最終的に修正箇所の前後の整合性も再確認した上で、実装完了となります。
最後の工程はほとんど人間が行っていきます。
本当にAIとの協業で効率化できたのか?
さて、こうして丁寧にAIとやりとりをしながら進めてきましたが、実際のところ効率化はできたのか、計算してみました。
AIを使ったのは工程1〜3だったので工数ベースで計算しています。
該当語句が含まれる箇所の抽出(工程1)
- Webサイトのページ数:約500ページ
○ 人間が目視で該当箇所を探した場合:500ページ×5分=2500分=41.5時間
○ AIでPythonプログラムを作成して抽出した場合:プログラム作成 60分 + 実行30分=1.5時間
適切に語句が使われているかの精査と、修正案の作成(工程2、3)
- 修正が必要な対象箇所:366箇所
○ 初心者が人力で作業した場合:1箇所5分 × 366 = 約30.5時間
○ AI活用した場合:約8時間
全体として、人力のみで実施した場合のおおよそ10分の1の工数で、精度を担保しながら完了させることができました。
AIに任せきりではなく、「人間がルールを決め、AIに下ごしらえをしてもらい、最後は人間が責任を持って仕上げる」という役割分担がうまく機能した結果だと思います。
屏風の虎から学んだこと
今回の取り組みで強く実感したのは、AIを「魔法の箱」として扱うのではなく、実現可能な前提条件を整えたうえで、適切な役割を与えることが重要だということです。
AIは万能ではありませんが、適切に設計すれば人間の力を大きく補完してくれる心強いパートナーになります。 「虎を屏風から出せ」と丸投げするのではなく、「虎をどう扱うか」の段取りを考えるのが人間の役割なのだと、改めて感じました。
今回の取り組みは「語句統一」というWebサイトの信頼性やブランドイメージを守るためには欠かせないプロセスです。 その地道な作業をAIと協業することで、大幅な効率化を実現できました。
AI活用がどうもうまくいかないという場合、「屏風の虎を退治せよ」と丸投げしてしまっていないか、一度振り返ってみてはいかがでしょうか。 AIは正しく使いこなせば、想像以上の力を発揮してくれるはずです。
おわりに
オプティムでは、エンジニアだけではなくプロモーション・デザイン・ユニットで一緒に働いてくださるメンバーも募集しています。プロモーション・デザイン・ユニットではUI/UXデザインやブランディング、Web制作、マーケティングなどオプティム製品にまつわる様々なデザインのお仕事をしています。
UI/UX、ブランディング、Webプロモーションなどに興味がある方、ぜひご応募お待ちしています。