GNSS測位の精度を高める!誤差要因の解説とベストな観測条件の考察

🌅 はじめに

R&D ユニットの葉山です。

弊社で提供している測量アプリ「OPTiM Geo Scan」では GNSS *1による高精度な位置情報の測位を利用し、建設現場での様々な作業をサポートするサービスを提供しています。

しかし、 GNSS での測位には様々な環境要因で誤差が発生します。従って、それらを理解して適切な環境で測位を行い、また測位結果を正しく評価する必要があります。

そこで、本記事では GNSS 測位を利用する上で知っておくべき主要な誤差要因について解説します。また、それらの誤差要因を踏まえた上で、影響をなるべく少なくするベストな観測条件についても考察してみました。*2

✅(忙しい人向け)簡単なまとめ

高精度な GNSS 測位を行う上でベストな条件は以下のように考えられます。

季節や時間帯などは基本的に通年・何時でも高精度測位は利用可能であり、下記表はあくまで夏場・日中と比較しての話になるので、通常気にする必要はない点にご留意ください。

また、太陽活動や電離圏の状況などは 宇宙天気予報 でチェックできるので、そちらを確認しておくことが望ましいです。測位においては、特に太陽フレア・電離圏嵐が静穏であると良いでしょう。

概要 ベストな条件
設置場所 オープンスカイ(空を遮るものが極力無い)
衛星配置 DOP が小さいほど良い
気象条件 大雨など荒れた天気を避ける
季節 冬場の方がより精度が安定しやすい
時間帯 夜間の方がより精度が安定しやすい
太陽活動(太陽フレア) 静穏な状態が良い
基線長(相対測位の場合) 短ければ短いほど良い(1km未満など)

GNSS 測位における主要な誤差

GNSS 測位では、主に以下のような誤差要因が存在します。

  • 衛星に起因する誤差
    • 衛星の軌道情報・衛星の時計
  • 電波の伝達に起因する誤差
    • 電離圏遅延・対流圏遅延
  • 受信機に起因する誤差
    • マルチパス・受信機の時計

ここでは、我々が測位を行う上で特に意識する必要がある「電離圏遅延」「対流圏遅延」「マルチパス・衛星配置」について紹介します。*3

⚡ 電離圏遅延について

電離圏とは、上空約50kmから約1000km程度の高さに広がっている領域であり、この領域では太陽の紫外線やX線によって電離(原子から電子が飛び出すこと、イオン化)された大気の密度が高くなっています。この領域を衛星からの電波が通過すると、電子の密度に応じて電波が屈折してしまいます。

これにより衛星からの電波の到達時間が変化しますが、GNSS 測位の基本原理として電波の到達時間によって位置を特定しているので、この変化が誤差の要因となります。測位の精度を上げるには、電離圏が安定して均一な状態であることが望ましいです。

電離圏の発生要因は太陽活動によるものなので、夜間には安定して均一となることが知られています。また、太陽活動は約11年周期で活発期と静穏期を繰り返すことが知られており、静穏期の方が影響が少ないケースが多くなります。*4

⛅ 対流圏遅延について

対流圏とは、地上から約10km程度までの濃い大気が存在する領域であり、雲や雨・雪などの気象現象が発生しているのはほぼこの領域です。つまり、大気の活動が活発な領域のことです。電波が大気を通過する際には気温・気圧・湿度などの条件で屈折し、また風雨によっても電波伝搬が変化するため、これらの条件が活発に変化する対流圏もまた測位精度へ影響を及ぼします。

肝心の理想的な気象条件についてですが、複雑な条件が絡み合うため一概にどの天気がベストということは言えません。しかし、少なくとも大雨のような荒れた天気は精度に著しく影響を与えることは知られています。気象条件に関する詳しい考察は「気象条件について」の項でお話しします。

🛰️ マルチパス・衛星配置について

GNSS による測位の基本的な原理として、衛星からの電波の到達時間を使って位置を特定しているので、到達時間が間違っていると測位にも誤差が発生します。

受信機は衛星からの直接波とは別に、近くの建物や地面などで反射した反射波も受信してしまいます。このように複数の経路(Multi-path)を辿って受信機に届くことをマルチパスと呼びます。

マルチパスは特に近くの建物などにより発生しやすく、近くに空を遮るものがない(オープンスカイな)環境が望ましいです。

また、マルチパスは仰角(衛星の水平線に対する角度)が低い衛星ほど影響を受けやすいため、仰角の低い衛星を使わないようにする設定などが有効な場合もあります。

また、衛星の配置も GNSS の測位精度にとって重要なポイントです。GNSS 測位では衛星と受信機の幾何学的配置から位置情報を計算するので、衛星が偏った方向に集まっているよりも、上空に満遍なく配置されている方が望ましいです。

この関係性を示す指標として DOP(Dilution Of Precision) という値があり、この値が小さいほど精度劣化が少ないと判断できるため、一つの判断材料として有効です。

↔️ 基線長について

GNSS における相対測位とは、二つ以上の地点で同時に衛星の電波の観測を行い、その相対的な位置関係を算出する方法の総称です。その際の受信機どうしの距離(基線長)は、一般的には短ければ短いほど良いと考えられます。基線長が長くなることで、基準局と移動局における様々な環境条件(電離圏・対流圏など)に差が生じて誤差を打ち消しづらくなり、精度が悪化するためです。

☁️ 気象条件について

前述の章で大雨は避けるべきという例を挙げましたが、実際にこれは実証実験として研究がなされており、大雨時には異なる方位角方向に対する対流圏遅延の不一致が 10 cm を超える(通常気象時は数 cm)ことが示されています。*5

また別の実証実験では、気象タイプ(快晴、やや曇り、ほぼ曇り、散在する雲、曇天)と GNSS 測位誤差に関して統計的関係が見られないことが示されています。*6 雲自体は対流圏遅延に影響を及ぼす可能性がありますが、GNSS 誤差は複雑なメカニズムが作用しますので、単純に気象タイプ単独では語れないということかと思います。

また季節変動性については、GNSS測位精度は夏季に低下し、冬季に向上する という結果が複数の論文で報告されています。*7 *8 これは電離圏の変動などが影響として考えられますが、同時に夏季は直射日光による熱膨張なども影響してくるため、GNSS 測位にとっては難しい季節と言えそうです。実際に、熱膨張によりアンテナ架台などのアンテナ周辺物は変動を受けるでしょうし、スケールの大きいところで言うと岩盤自体の熱膨張による数 mm 単位での変動を調査した論文がいくつかあります。 *9 *10

📚まとめ

本記事では GNSS 測位における誤差要因についてまとめ、その影響が少ない条件について考察してみました。

GNSS 測位誤差は複雑な要因が絡むため、ここで書いた条件を満たせば精度が良く、満たさないと精度が悪い...といった風には一概には言えません。あくまで参考程度に留めていただきたいですが、精度があまり出ないなといった際に考えるべきポイントとして思っていただけると幸いです。

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*1:衛星測位システムの総称

*2:GNSS 測位誤差は複雑な要因が絡むため、あくまで参考程度にお考えください🙇‍♂️

*3:歴史的には「電離層」と呼ばれることが多いですが、近年では「電離圏」と呼ぶことが多いようなのでここでは電離圏と呼んでいます。両者は同一のものです。

*4:2026年2月現在は2019年末に始まったサイクル25が継続中

*5:Ma et al. Influence of the inhomogeneous troposphere on GNSS positioning and integer ambiguity resolution. Advances in Space Research. 2021. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0273117721000193

*6:Merry, K. Bettinger, P. Smartphone GPS accuracy study in an urban environment. PloS One. 2019. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6638960/

*7:Doǧan et al. Investigation of GPS positioning accuracy during the seasonal variation. Measurement. 2014. https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0263224114001389

*8:Saracoglu, A. Sanli, D.U. Accuracy of GPS positioning concerning Köppen-Geiger climate classification. Measurement. 2021. https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S026322412100600X

*9:Yan et al. Contributions of thermal expansion of monuments and nearby bedrock to observed GPS height changes. Geophysical Research Letters. 2009. https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1029/2009GL038152

*10:Wang et al. Assessment of the diurnal and semidiurnal signals induced by monument thermal effect with time series of very short GPS baselines. Geodesy and Geodynamics. 2025. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1674984724000764