Rust 1.36を早めに深掘り

こんにちは。ようやく家のPCをIvyBridgeから卒業してZen2に突撃することを決めたR&Dチームの齋藤(@aznhe21)です。

さて、本日、日本時間7/5(金)、Rust 1.36がリリースされました。 この記事ではRust 1.36での変更点を詳しく紹介します。 なお、この記事は公式リリースノートをベースに、意訳・追記をしています。

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ピックアップ

個人的に注目する変更点を「ピックアップ」としてまとめました。 全ての変更点を網羅したリストは変更点リストをご覧ください。

Futureが安定化された

ついにこの時がやって来ました。 非同期処理のデファクトスタンダードであるFuture(言語によってはPromiseとも呼ばれる)がRust標準に導入されました。 今のところはfuturesクレートを使うのとあまり変わりないように思えますが、 今後のバージョン(Rust 1.38が予定されています)でasync/await構文が入り、 今まで書けなかった処理やわかりにくかった処理が書けるようになります。

Futureのシステムに関する詳細は別の記事に書きましたのでそちらをご参照下さい。

MaybeUninitが安定化された

MaybeUninitによって、Dropが実装された型でも安全に未初期化変数が使えるようになりました。 FFIやパフォーマンスの求められる場所でもこのような型が使いやすくなります。

また、今までmem::uninitializedを使っていた場合はRust 1.38.0から非推奨になるため 早めに置き換えることをオススメします。

use std::mem::MaybeUninit;

fn main() {
  let v: u32 = unsafe {
    MaybeUninit::uninit().assume_init()
  };
  println!("{}", v); // uninitialized value

  let v: u32 = unsafe {
    MaybeUninit::zeroed().assume_init()
  };
  println!("{}", v); // 0
}

allocクレートが安定化された

#![no_std]環境においてもBoxVecなどが使えるようになりました。 組み込み環境やOS開発などのlibstdは使えないがヒープは使える環境においては、 これまでは独自のスマートポインタを使用していました。 このような環境でも、これからは標準のAPIが使えるようになります。

例えばalloc-cortex-mを使うとCortex向けベアメタルプログラムでもヒープ確保が出来るようです。

変更点リスト

言語

ライブラリ

安定化されたAPI

VecDeque::rotate_left

VecDequeのデータを左に回転させる。

VecDeque::rotate_right

VecDequeのデータを右に回転させる。

Iterator::copied

Iterator<Item=&T>TCopyトレイトを実装するときに使えるもので、中身の値をコピーするイテレータを返す。 実質Iterator::clonedと同じではあるが、TからCopyトレイトへの実装が消えたときでも誤ってコピーし続けることを防止できる。

io::IoSlice

Write::write_vectoredで使われるバッファ用の型。

io::IoSliceMut

Read::read_vectoredで使われるバッファ用の型。

Read::read_vectored

複数のバッファに対して順に、一度に読み込むメソッド。 データが途中までしか読み込めない場合、Read::readと同じく途中で切り上げる。

Unix系でのファイル操作などがreadvによって実装されるため、一度のシステムコールで複数のバッファに対して読み込める。

Write::write_vectored

複数のバッファを順に、一度に書き込むメソッド。 データが途中までしか書き込めない場合、Write::writeと同じく途中で切り上げる。

Unix系でのファイル操作などwritevによって実装されるため、一度のシステムコールで複数のバッファを書き込める。

str::as_mut_ptr

文字列のスライスを生ポインタに変換する。

書き込むデータはUTF-8として適切なものでなければならない。

mem::MaybeUninit

「初期化されていないかも知れない値」を表す。 mem::zeroedmem::uninitializedと違い、そのままではDrop::dropを呼び出すことがないため扱いやすい。

MaybeUninit::writeによって初期化したあとはMaybeUninit::assume_initによって通常の型に変換することが出来る。

pointer::align_offset

ポインタを、指定されたアラインに揃えるためのオフセットを返す。

future::Future

「将来返される値」を表す。非同期処理に使う。

task::Context

Future::pollに渡すコンテキスト。 Futureの処理が完了した際、このコンテキストによって管理されるWakerwakeメソッドが呼び出される。

task::RawWaker

Wakerによってラップされる生のインスタンス。 Wakerの各メソッドを仮想関数テーブルとして渡せるよう抽象化されている。

task::RawWakerVTable

Wakerから呼び出される仮想関数のテーブルを管理する。

task::Waker

Futureが処理を完了した場合や中断したことをランタイムに伝えるためのメソッドを提供する。

task::Poll

Futureの戻り値を表す。 ReadyPendingの状態があり、Futureの処理が完了していればReadyを返し、処理が未完了であればPendingを返す。

Cargo

追加

  • (Nightly限定): -Z install-upgradeフィーチャー を追加した。 古いクレートのアップデートに使える。 #6798
  • (Nightly限定): public-dependencyフィーチャー を追加した。 これによって依存関係の公開・非公開を設定出来るようになる。 #6772
  • ビルド対象の自動探索に関するドキュメントを詳細化した。 #6898
  • (Nightly限定): ビルドのパイプライン化を設定項目のbuild.pipelining、 あるいは環境変数のCARGO_BUILD_PIPELININGによって変更出来るようになった。 #6883
  • 🔥 --offlineフラグによってcargoのネットワークアクセスを禁止できるようになった。 #6934 #6871

変更

  • publish = ["crates-io"]を指定することでクレートのcrates.io以外への公開を防げるようになった。 #6838
  • macOS: DYLD_FALLBACK_LIBRARY_PATHが設定されていない場合に限りデフォルトのパスを含めるようになった。 また、/libをデフォルトのパスから除去した。 #6856
  • cargo publishにおいて、トークンが無効の場合は早期に終了するようになった。 #6854
  • HTTP/2ストリームのエラーを不確かなエラーとし、リクエストを再実行するようになった。 #6861
  • (Nightly限定): publish-lockfileフィーチャーで大きな変更をした。 デフォルトはtrueになり、バイナリクレートではCargo.lockは常に公開されるようになった。 また、Cargo.lockは公開の際に再生成されるようになった。 cargo installCargo.lockをデフォルトで無視し、--lockedが指定された場合のみロックファイルを使うようになった。 また、ヤンクされたクレートが依存関係にいる場合は警告が出るようになった。 #6840
  • 必須の依存関係をフィーチャーとして指定するとエラーが出るようになった。以前は警告が出るのみだった。 #6860
  • registry.indexの設定で相対的なfile:URLをサポートした。 #6873
  • macOS: デバッガが見つけられるように、.dSYMディレクトリのシンボリックリンクを サンプルバイナリと同じ場所に生成するようにした。 #6891
  • 新規プロジェクトに生成されるデフォルトのCargo.tomlテンプレートに、ドキュメントへのリンクを含めるようにした。 #6881
  • クレートをダウンロードする時のメッセージ分を改善。 #6916 #6920
  • logクレートを使用している場合にCargoのログがでないよう、環境変数の名前をRUST_LOGからCARGO_LOGに変更した。 #6918
  • package.includeに記載されていなくてもパッケージにはCargo.tomlを常に含めるようにした。 #6925
  • package.include/package.excludeの値はグロブではなくgitignoreの形式にした。 #6924
  • crates.ioがタイムアウトしたときやステータスが正常でない場合のエラーメッセージを改善した。 #6936

パフォーマンス

  • いくつかのケースで依存性解決のパフォーマンスを改善した。 #6853
  • インデックス用JSONファイルの読み込みを最適化した。 #6880 #6912 #6940
  • 各種パフォーマンスの改善。 #6867

修正

  • 依存関係のビルドキャッシュをより注意深く追跡するようにした。 これにより、ビルドを中止したあとに再始動したときの動作を改善した。 #6832
  • cargo runが非UTF-8の引数も正しく子プロセスに渡すようになった。 #6849
  • macOSに初期状態で入っているbash 3.2でのbash補完を修正した。 #6905
  • zsh補完を各種修正・改善した。 #6926 #6929
  • Cargo.lockファイルがないときにcargo updateが引数-pを無視するのを修正した。 #6904

Clippy

互換性メモ

  • mem::MaybeUninitが安定化されたため、mem::uninitializedの使用は推奨されなくなった。 Rust 1.38.0からは廃止予定(deprecated)となる

関連リンク

さいごに

ついにFutureが入り、Rust標準で非同期処理を簡単に書くための準備が整いました。 futuresやtokioも対応が既に着々と進みつつあり、直に利用できるようになるでしょう。 async/await構文も順調にいけば1.38で導入されるようなので、早くも1.38が待ちきれない(6週間ぶり3度目)ですね。

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ライセンス表記

  • この記事はApache 2/MITのデュアルライセンスで公開されている公式リリースノートを翻訳・追記をしています
  • 冒頭の画像中にはRust公式サイトで配布されているロゴを使用しており、 このロゴはMozillaによってCC-BYの下で配布されています
  • 冒頭の画像はいらすとやさんの画像を使っています。いつもありがとうございます

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   boilerplate notice, with the fields enclosed by brackets "[]"
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